昔のことを思い出して心がざわめくので愚痴がてら書き込みます。

数十年前の話です。
大学生の頃、ファミレスでバイトをしていた。
バイト仲間全員仲が良く、同じ時間帯のシフトに入っていた彼氏もできた。

そこは24時間営業のファミレスで、時間帯ごとにバイトが入れ替わるシフト制になっていた。
朝~夕方、夕方~夜、夜~朝という3シフト制というかんじ。社員さんは別のシフトだけども。

私と彼氏は夕方から夜までのシフトに入っていたから、
朝からのシフトの人とも夜からのシフトの人とも面識があった。

あるとき、忘年会が行われることになった。
もちろん全員出席はできないから、バイトで参加したのはその日バイトがない人だけ。
そこで、いつもは面識がない朝からのシフトの人と夜からのシフトの人も一同に集まった。

私と彼氏は、両シフトメンバーとも面識があったので間に入るかんじで話を盛り上げた。
初めはぎこちなかったが、お酒が入るにつれて場も盛り上がっていった。
忘年会後、その中の朝からのシフトの女の人と、夜からのシフトの男の人が二人で飲み直しに行き、そのまま関係を持ってしまった。
問題なのは、男の人が既婚者だったということ。

私と彼氏は、両方から相談というか、のろけ話を聞くようになっていた。
朝のシフトの女の人=20代前半、独身のA子さんは、
初彼だったらしく最初は酒の勢いもあったが次第に男の人に夢中になっていった。

夜のシフトの男の人=B男さんは、40代の既婚者だったが、
20代の若い彼女ができて夢中になり、こちらも完全に周りが見えなくなっていた。

周りがどんなに忠告ををしても2人は聞かず、むしろ燃え上っているようだった。
2人のつきあいは、半年ほど続き、突然終わりを迎えた。
A子さんが亡くなったのだ。

それは、突然だった。
長引く咳を心配したA子さん両親にうながされ病院に行き即入院、
そのまま坂道を転がるように悪化し集中治療室へ、そのまま帰らぬ人になった。

その間5日間だった。
B男さんは、病院へ毎日お見舞いに行っていたらしい。
親族しか入れない集中治療室にも入り、それはそれは献身的にA子さんを励ましていたそうだ。
亡くなったと知らせを受けた時も、A子さんのご両親もいたらしいが、病院でご両親以上に取り乱していたらしい。

私も訃報を聞き、彼氏やバイト仲間と共に葬式に出席した。
B男さんは出席していなかった。ショックすぎて寝込んでいると聞いた。
20代前半の若い女性のお葬式は、とてもしんみりしたものだった。
一人娘だったA子さんのご両親は、ただうつむいて泣いていた。とてもやりきれなかった。

A子さんの葬式から1週間ほどたち、B男さんから話があると言われた。
私は彼氏やバイト仲間と一緒にB男さんと居酒屋で会うことにした。
彼氏と一緒に待ち合わせ場所で待っていると、一人の老人が私たちに話しかけてきた。
よく見ると、B男さんだった。

若々しかったB男さんは、ほとんどの髪が白髪になり、顔色はどす黑く変色して土気色だった。
よくよく見なければB男さんだと判らないほど老け込んでいた。
私たちは、とりあえず居酒屋へ行った。
B男さんはそこでA子さんとの思い出を語りながら、浴びるようにお酒を飲んだ。
私たちは何と言ってよいかわからず、ほとんど無言のままお通夜状態で飲み会は終了し、居酒屋を出た。

ほとんど立っていられないほど泥酔しきったB男さんは、
バイト仲間の男性に担がれながらそれでもA子さんの名前を呼んでいた。
私は、彼氏の隣で不貞行為だったとはいえ本当にA子さんを愛していたんだなと、
B男さんを少し哀れに思いながらその背中を眺めていた。

ふと、B男さんの肩に黒い固まりがついているのが見えた。
黑い長い髪の毛…?違和感はすぐに気付いた。B男さんの髪じゃない!
底の見えない暗い穴を覗き込んだような、ぞくっとした冷たいものが背中を走った。なんだあれ!
それは、黑い髪の毛の固まりだった。女性がするおだんごのような髪型のような固まりだ。

そして、その髪の毛の間からなにかがこちらを見ている視線を感じた。
悪意や殺意のような負の感情を直接ぶつけられているような気持ち悪い視線だった。
私は彼氏を連れてその場を離れた。

B男さんはバイト仲間の男性が自宅まで運ぶだろう。
とにかくB男さんから離れたかった。
彼氏に今見たことを話すと、「A子ちゃんかな…やっぱり若くして亡くなって無念だったんだろうね…。」としみじみ言っていた。
私もそのときは、同意した。
あれは無念のうちに亡くなってしまったA子さんが愛するB男さんを想って出てきたのだろうと。
B男さんは、まもなくバイトを辞めた。
私も彼もその後大学卒業を機にバイトを辞めた。

しかし、今になって私は思う。
A子さんはあんな悪意ある視線を亡くなったからといって、バイト仲間に向けるような人だろうかと。
なによりA子さんは茶髪だった。

…実は、B男さんの両親は商店街で小さな商店をを開いていた。
同居のお嫁さん=B男さんの奥さんもお店を毎日手伝っていた。
昔は商店もうまくいっていたらしいが、その時はB男さんが昼間は会社に勤務し、
夜はファミレスでバイトをして赤字の部分を補わなくてはならないほど商店はあぶなかったらしい。

そんな中、B男さんの奥さんは一生懸命働いていた。
商売がうまくいかない鬱憤を奥さんにぶつける義両親の嫁いびりに耐えながら。
きっと子どものため、夫のため、必死に働いていたのだろう。
そんな中、もし夫に女性の影が現れたら…。

B男さんの奥さんはきれいな黒い長い髪をしていた。
そして、あの視線はB男さんを見ていた女性に向けて悪意を持っていた。
もしかして…と私は想像せざるを得ない。

B男さん両親がその後すぐに立て続けに亡くなり、商店はシャッターがおりたまま今もある。

…A子さんは本当に不幸なことだったと思う。
しかし、どんな理由があっても不貞行為をしてはいけないと、私は思う。

だから、私は夫に言い続ける。浮気は絶対にしないでね、と。
女性は、愛するもののためなら蛇にも鬼にもなれるのだから。