ノック

私はある広告代理店のデザイナーとして働いています。 
会社はオフィスビルのワンフロアーを借り切っていて、エレベーターを降りると、まず玄関。 
その玄関を入ると、中で部署ごとに部屋が分かれている構造です。 
一番奥まった隅のデザイン室が私の職場。 
その会社では深夜になると、ちょっとした怪奇現象が起きていました。 
深夜なので玄関をロックして仕事をしていると、 
部署ごとの部屋のドアを誰かがノックするので、出てみると誰もいない。 
他に残っている人はいないし、ノックできる人は誰もいない。 
(他部署で残業している場合でも、誰もしていない) 
という非常にありふれた現象ですが。 

私はデザイナーという職業上、深夜2時3時...と仕事をする事は 
けして珍しい事ではなく、したがってノック音にも慣れたもので、 
全く気にしていませんでした。 
たまたま遅くなり遭遇してしまった営業部の社員などは恐れていましたが、 
私には「この大量の仕事をどうするか」それが最大の関心事でした。 

その日も私達は、7人で残業をしていました。 
玄関を中からロックし、社内で残っているのは私達だけでした。 

深夜1時をまわった頃です。 
「コン、コン、コン....」 
「....................(またか)」 
「コン、コン、コン....」 
「....................」 
「コン、コン、コン....」 
「....................」 
うるさいなと思い始めたその時、 
今までになかった激しさでドアが叩かれました。 
「ド ン! ド ン! ド ン!」 
「....................(ブチッ)」 
連日の寝不足で怒りっぽくなっていたデザイナー達は全員切れました。 
「うるせぇな、てめえはなんなんだよ!」 
「ぶっころすぞ、この野郎!」 
「ふざけんじゃねえ、やかましんだよ!」 
口々に怒鳴りちらす私達。 
その大人げない姿を呆然として見つめるアシスタント達。 
その夜は、それ以降ノック音は起こりませんでした。 
大声を出してすっきりしたのか、その後は絶好調で仕事ができました。 

その夜を最後に、ノック音がする事はなくなりました。 
今思い出すと結構恐いですが、その時はなんともなく 
むしろ仕事のイライラが少し解消され、すっきりしました。 
ノックの主が少し気の毒な感じもします。 

長文スマソ